大西枝美の恋するインド、アーユル紀行

vol.2 ふたりの思い出の場所、コバラムビーチへ

アンマのアシュラムを出発する日が来た。トムはアシュラムを出るのが嬉しいらしく、ご機嫌だ。私よりも早く起きて部屋の掃除をしている。出発の準備を整え、下に降りると、既にたくさんの人がマントラが響くなか往来していた。私たちはアンマの飼い犬に見送られ、タクシーに乗り込んだ。

ピンク色の巨大なアシュラムは、ココナツの生い茂るジャングルに見え隠れしながら、どんどん小さくなっていき、まるでアシュラムでのヴィヴィッドな記憶を徐々に薄めていくかのように、あたりの景色ものどかなケララの田舎の風景に変わっていった。やがてインド南端の町、カニャクマリより約60km 北上したところに位置する聖地、コバラムに到着。ケララ州の観光リゾート地でもあり、タクシーを降りて坂道を下り海岸に出ると、曇りのない真っ青な空と、そこからグラデーションで続く青い海、そしていくつかのパラソルが目に飛び込んできた。

「うわぁー! 」。懐かしさで胸がいっぱいになり、思わず声が出る。7年前、今と同じルートでアシュラムからこのビーチにやって来て、そして、ここでトムと初めて出会った。まさに私達の7年間の愛の巡礼の旅が始まった場所なのだ。再びこの地を訪れた私たちは、ゲストハウスに荷物を置いて、海外沿いに軒を並べる土産店やレストランをぶらぶらと歩きながら見てまわった。以前と比べてアーユルヴェーダやヨガの看板が増えて、更に観光地化が進み、町はとても賑わっていた。「やっとバカンスらしいバカンスができる。何もしないでゆっくりするぞ!」トムは心底リラックスしている様子だ。インド7日目、ようやくこの国のペースに慣れてきたようだった。

お気に入りアーユルヴェーダクリニックとの出会い翌日、トムが以前滞在したという、コバラムでもとても有名なアーユルヴェーダクリニックを訪れた。アーユルヴェーダの教典では、デトックス治療であるパンチャカルマは42日間受けるものと記されているが、やはり、あまりにも長い。それでも最低3週間は必要だという。トムのすすめもあり、試しにカラリマッサージという足を使って行われる、全身オイルマッサージを受けてみることにした。

夕暮れ時の少し薄暗い部屋のなか、セラピストは天井からぶら下がるヒモを持ち、上手にバランスを取りながら、無防備に床に横たわる私の体を、これでもかと言わんばかりに力強く足でマッサージする。体に溜まった毒素を丁寧にこすり出すためだが、まるでオイルサーディンになったかのような気持ちがする。はじめのうちは強いマッサージに痛みを感じたが、遠くに聞こえるヨガクラスのマントラに聞き入っているうちに、そんな痛みもどこかへ飛んでいってしまった。

3年前に新築されたというこのクリニックの木とレンガを使った建物は、ナチュラルテイストが南国の楽園そのものだ。実はインドに来る前にコーチンにあるアーユルヴェーダクリニックに無理を言って1週間だけの予約を入れていたのだが、旅の残りの時間全てをこのクリニックでの治療に費やすことに決めた。すっかりここが気に入ってしまったのだ。

でもその夜、わたしは熱を出した。クリニックで処方してもらったハーブの薬を飲んで次の日は1日中寝込むことになった。インドに来てしばらくするとわたしはいつも発熱する。ひどいときは嘔吐や下痢もするが、インドの洗礼だと思って、苦しいけれどいつも素直に受け入れるようにしている。そしてたいてい、熱が引くとともにインド旅行の本番が幕を開けるのだ。

EPISODES

インドの旅の思い出「トゥルシー」

トゥルシートゥルシーは日本では「カミメボウキ」、英語では「ホーリーバジル」と呼ばれるシソ科の植物。ヒンドゥー教では「聖なる植物」とされ、女神ラクシュミーの化身として崇められている。マインドとハートを解放し、ヨガや瞑想の効果を高めるハーブで、葉の部分を乾燥させて作られるハーブティーは、インド中のオーガニック食品店で簡単に入手することができる。

インドで見たアーユルヴェーダ

パンチャカルマの行程は大きく5つのステップにわかれる。

  1. マッサージで体を整える
  2. オイルを使った治療により、体に溜まる毒素を腸へ流す
  3. 腸内洗浄
  4. 各器官に溜まった毒素を掃き出す
  5. オイル、薬を使った治療により体、臓器を強化する

「ヨガとアーユルヴェーダは、同じ文化の中で深い知識を持った聖人達によって作られました。ヨガは超意識に到達するための手段であり、修行者はヨガによって自然に身体を癒す方法を知っています。アサナの練習により自分の身体に対して意識が高まることで、肉体、感情、精神へと段階的にアプローチしていくことができるでしょう」(アガスティヤ・ヘリテージ・アーユルヴェーディック・センター ウンニ先生談)