大西枝美の恋するインド、アーユル紀行

vol.3 2週間のパンチャカルマをスタート

体という土壌を耕して栄養を与えるトリートメント翌日、まだお腹に少し痛みを感じていたが熱は下がった。今日はクリスマス。自分へのクリスマスプレゼントに、2週間のパンチャカルマ治療を開始した。治療を始める前に診察室に呼ばれる。診察室といっても、そこは緑豊かな庭が見渡せるバルコニー。ドクターは聴診器も使わず、わたしに触れることもせずに体の状態について質問するばかり。40代前半に見えるドクターのウンニ先生はインド人男性の勲章であるヒゲをはやしていない清潔感のある素敵な人だった。

そして診察を終えたウンニ先生は、気の毒そうにわたしを見て「君は、痩せ過ぎだね」と言った。インドでは豊満なスタイルが女性の美とされているので、ヨガを始めてからさらに体重が減ってしまっていたわたしは、確かに骨と皮ばかりかもしれなかった。それからドクターは、「治療中に体重が増えることはありませんが、体が畑だと考えると、パンチャカルマの治療ではその土を耕し栄養を与え、治療後にベストな体の状態に持ってゆくのが目的なので、治療を終えた後は体重が少し増えるでしょう。本格的な治療は熱が完全に下がってから始めることにして、今日はマイルドな治療から始めましょう」と言った。その後、セラピストがわたしを治療室へと案内してくれた。

パンチャカルマ第1日目 カラリマッサージ再びいよいよ治療のはじまり。女性セラピストは、クリニック特製オイルをわたしの体にたっぷりとかけ、天井からぶら下がるロープを持ちながら上手にバランスを取りつつ、足を器用に使って全裸で横たわるわたしの体を隅々まで丁寧にマッサージしていく。熱は下がっていたが、お腹がまだ少し痛んでいると伝えると、その辺りは少しやさしくマッサージしてくれた。このマッサージは、チャヴッティ・ウズィチル(Chavutti Uzhichil) と呼ばれるもので、別名カラリマッサージ。ケララの伝統武道カラリパヤトゥの療術のひとつでもある。 1時間くらいだろうか。エネルギッシュなカラリマッサージが終わると隣の部屋へ案内された。そこにはアーユルヴェーダ治療専用の木のベッドがあり、3人の女性セラピストが次の治療の準備をしてわたしを待ち受けていた。

3人はわたしを見ると満面の笑みを浮かべながらベッドに横たわるようにと言った。彼女たちの目にも私は「痩せ過ぎ」なのだろうか。そんな気持ちも、オイルや薬草のエキスが香る木製のベッドに横たわっているだけで消えてしまった。ハーブとオイルの交じった液体を3人が交互になって何度も身体にかけてくれる。この液体はヴァータ(風)の要素を鎮静させる効果があるそうだ。約30分のこのピジチル(Pizhichil)という治療ですっかり身体があたたまり、お腹の痛みも和らいだ。

治療が終わるとセラピストたちは慣れた手つきでベッドを掃除し、次の準備を始める。その間、わたしは全裸のままベッドの脇に立っていなければならなかった。次はウドゥヴァルタナム(Udvartanam)という黄色いターメリックのような粉をリズミカルに体に擦り込んでいくトリートメントだ。鳥の声や遠くには波の音も聞こえるなか、レンガを重ねただけの部屋の壁の穴からはココナッツの木が見える。セラピストとの簡単な問答が終わるとジャングルの緑に引き込まれそうになる。わたしはここで、エネルギーがたくさん詰まったオイルや薬草に抱かれ、まるで聖なる儀式を行っているかのような深い安らぎを感じていた。「痩せすぎ」だと診断されたわたしの畑はこうして耕され、自然のエネルギーという栄養で満たされていくのだろう。クリームをたっぷり使ったフェイシャルマッサージの後、ルンギーをドレスのように着せてもらって治療室を後にした。自分の体にいま必要なことを、しっかりしてあげられたことが嬉しかった。

EPISODES

インドの旅の思い出「カラリパヤトゥとカラリマッサージ」

16世紀に最盛期を迎えたケララ州の伝統武術。蹴り技、素手での打撃技や投げる技法などが行なわれ、カラリマッサージは、カラリパヤットゥを修行する者の身体を癒してきた。エネルギーが集まるマルマポイントが、武術では急所に、療術ではツボになるのは興味深い。

インドで見たアーユルヴェーダ「パンチャカルマ治療中の食べもの」

パンチャカルマ治療中は基本的に温野菜、スープを食し、ヨーグルト、揚げ物、脂っこいもの、辛いもの、酸っぱいものは避ける。もちろん、アルコール、ビール、タバコ、コーヒー、炭酸飲料などの摂取は禁止。そして治療を受ける1時間前には食事を済ませること。これを甘く見て規則に従わなかったり、冷水を飲んだりすると下痢や熱に襲われるので注意!