大西枝美の恋するインド、アーユル紀行

vol.5 パンチャカルマの解毒作用が続く

パンチャカルマ第1日目 カラリマッサージ再び7日目は大晦日だったが、年末という雰囲気を全く感じさせないココナッツのジャングルの中でいつもと同じように治療を受けた。カラリマッサージの後に、キズィー(Kizhi)を受けたのだが、今日は米ボールを浸す液体の中に牛乳が入っていた。トムは昨日の夜、薬を飲むのをうっかり忘れていたのが原因なのか熱を出した。そして今日もカディバスティを受けた。

日没後、海沿いのレストランにはカウントダウンの花火を見るために観光客たちが集まってきて、ようやく年末らしい雰囲気が漂いはじめた。しかし、大晦日の夜の10時、トムの熱は40度近くにまで上がり、彼はこんこんと眠っている。私もその横でウトウトしているうちに、深夜0時をまわってしまった。

「パンチャカルマを中断したい。カプチーノやクロワッサンが食べたいし、正月らしくて観光客らしいご飯が食べたい。こんなの拷問だよ、苦しいだけだ。」
新年が明けた8日目の朝、高熱に苦しむトムはこう言った。当然だろう、こんなに長い間苦しみ、不自由なのだから。私もトムがこんな目に遭うなんて思っていなかった。治療を開始したばかりの心地良い日々はどこへ行ってしまったのだろう。

体という土壌を耕して栄養を与えるトリートメント先生はトムの顔からまるで内臓を覗くかのようにしながら言った。
「辛いだろうし、治療を止めたい気持ちもわかるが、今中断して普通の食事を始めたら大変なことになる。もちろん強制はしない。どうするかは自分で決めるといいよ」
それは明らかに選択の余地の無い答えだった。トムはクリニックでお粥をもらい、1日だけ治療を休むことにして部屋へ戻った。私は、カラリマッサージとキズィーとダシャムラ・シロダーラを受けた。その後、私は3日間同じ治療を受けたが、トムはその間ずっと熱にうなされていた。

10日目、新しい治療をひかえ、翌日のバスティ(浣腸療法)の準備として肛門からオイルを、シリンジで少し注入された。トムは熱が下がり、空腹感を感じ始めたらしい。お粥では我慢できずにお昼にターリーを食べたが、その後またお腹が痛くなり、ウンニ先生に助けを求めた。
先生はどうしたものかという顔つきでトムを見つめ、
「これだけ発熱し、トイレにもたくさん行ったというのにお腹に一体何が残っているんだろう? モンスターでも住み着いているのかな」
そう笑顔で言った。トムはまたお粥の食事に逆戻りだ。

11日目はバスティの日、私は朝食を抜いて治療にそなえる。今日はいつものカラリマッサージの代わりに、アビャンガム(Abyangam)というハンドマッサージをしてもらったあと、キズィーを受け、それから別室に連れて行かれた。
浣腸療法であるバスティは、神経麻痺や関節炎、不妊、消化器系の問題などのヴァータ系の疾患に最適だという。いよいよ治療開始だ。ベッドに横向けになり湯たんぽでお腹を温めながら、500mlほどの生温い液体が大腸に少しずつ入れられる。

「全部入りましたよ。約3分間は肛門を閉めて我慢して下さいね。」と女医さんが言う。鳥肌と共に一気に寒気がやってきた。お腹が痛い。目の前にある時計の秒針の動きが遅くなったように見える。こりゃ3分間も無理だな。

「先生、もう無理です。」まだ1分しか経っていない。

「この薬は30種類以上の薬草が入っていてね、ここで作っているんですよ。体にとても良いミネラル成分もいっぱいでね」。女医さんは私に顔を近づけて必死に話し続ける。なだめようとしているのだろう。でも今の私には薬草が10種類入っていようが20種類入っていようが、そんなことはどうでもいいくらいに辛い。

結局2分しか我慢できず、トイレにかけこんだ。

しばらくするとトイレに入ったままの私の様子を見に来たセラピストが、お湯を背中にかけてくれた。脱水症状を防ぐために、お粥を少しずつ口に入れてくれる。用を足しながらお粥を食べさせてもらうなんてとても恥ずかしい状況なのだが、そんなこと気にしていられないほど、体は衰弱していたし、セラピストの母性愛たっぷりのケアに、羞恥心もどこかへ去ってしまっていた。

それから、フラつく身体で治療室を出て待合室へ戻ると、新たにお粥が用意されていた。それから何度かトイレを行き来しながら、少しずつお粥を口に入れた。そして部屋に戻り、深い眠りから目覚めた夕方には、私はすっかり体力を取り戻していた。

EPISODES

インドの旅の思い出「苦い薬の正体」

苦い薬の正体一握りをカップ4杯の水で沸騰させ、1と1/2 の量になるまで煮出す。食前に1/3 ずつ飲む。煮出したあとの葉は捨てずに、次の日にまた一握りの葉を足して、同じようにカップ4杯の水で沸騰させ、1と1/2 の量になるまで煮出す。そうして毎日新しい葉を少しずつ足していき、約一週間後、葉の匂いが悪くなったら全部捨てて、また初めからスタート。

インドで見たアーユルヴェーダ「ヨガとアーユルヴェーダ」

ヨガとアーユルヴェーダ体質がド―シャで表わされるように、心の性質を表わすのが「トリグナ」。ヨガのサーンキャ学派では宇宙に存在するエネルギーやインドに古くから伝わる伝統医学であるアーユルヴェーダは、ヨギックメディソン(ヨガ的治癒学)と呼ばれることがあり、ヨガとアーユルヴェーダは、密接な関わり合いがある。今回滞在した、アガスティヤ・ヘリテージ・アーユルヴェーディック・センター には、ヨガシャラが併設されていて、ゲストのために朝夕、シヴァナンダ・ヨガセンターのウラシマ・ナデサン先生によるレッスンが行なわれている。